チャリ旅日記

旅のことや日常のことを気ままに綴るよ

ベテランリフト係に聞いた話

 


どうもリョウスケです

 

 

 

「今年は異常だよ、、、」とベテランリフト係は口を揃えて渋顔を作る。

「例年はこんなもんじゃないんだよ。年明ける前には大概全てのリフトが稼働して、全コースオープンするのが当たり前だったんだから」

と、ベテランリフト係は大きな溜息を吐いた。

彼らは毎日のようにゲレンデを見渡しながら、過去の積雪量と比較して嘆く。私はいつもその話に親身になって聴くようにしている。

今シーズンは年末に辛うじてオープンし、それから一月ほどは、雪不足のために二本のリフトと、半分以下のコースしか滑走できない状況が続いた。

リフトが動かないのであれば、その分仕事も減る。仕事が減れば給料も減り、自堕落で生産性の乏しい日々が続いたが、反対に休みが増えたことで自由な時間を気儘に過ごすことができ、ある意味充実した日々を送れたことには感謝している。

 


ここ(リフト乗り場)から、リフト降り場までが積み重ねた雪に隠れて見えなくなったんだ、そりゃすごいよ。逆に雪が多過ぎて大変だったんだからと、笑う表情には、どこか大変という言葉の割には、昔の良き思い出を懐かしむような雰囲気を感じる。

いまでは300mほど先にある降り場までは通常の視力であれば、充分に客が降り立つ直前まではっきりと見渡すことができる。

リフト係が働いているかサボっているかも、見ようによっては見えなくもないため、確かに困りようではあるが、さほど気にすることではない。

 


「そこの坂があるだろ(乗り場までのスロープ)。本当ならいつもはあれが平らになるんだ。それだけ普段はゲレンデに雪が積もって足場が高くなってたんだよ」

いまでは初心者のスキーヤーがコースを滑り降りるより長い時間をかけ、汗水流しながら登っている坂である。

降りのときも同様で、もしかしたらゲレンデのコースよりも急なのではないかと思う程の傾斜があり、皮肉にも初心者向けのコースを滑る為に、長さ10mほどの中級コースに挑戦するようなものである。

本末転倒である上に、実際に転倒する者が後を絶たない、公式のパンフレットに明記されていない、地獄のコースである。

 


「リフトの線路下に雪が沢山あったら、たとえ途中で落っこちたとしても大丈夫なんだけど、今年は落ちたら危ねえよなあ」

と笑うリフト係に、相槌を大きく打って笑う。

とは言え、どちらにしても落ちたら危険なのに代わりはないが、幼児期の子どもを一人で乗せなければいけない分、その方が安心であるのは確かである。

だからといって、落ちても大丈夫な訳がない。

 


「おまえ、寮は何階や? 一階か? 一階はな、雪が沢山降ると窓まで雪が積もって、その雪に食材を突っ込んで、天然の冷蔵庫として利用することができるぞ」

持ち前の知恵袋を披露するような面持ちで、ベテランリフト係は話す。

確かにそれは凄い話だ。部屋に冷蔵庫がない分、雪を冷蔵庫の代わりにできるなんて、まさに雪国ならではの発想である。

だが、部屋の暖房を例によって使用しない私は、部屋に食材を置いておくだけで冷蔵庫の役割を果たしているのが現状である。もちろんそんな野暮な事は言わない。そうなんですか! と驚いた顔で関心している。

 


たらればと言われても、今年のスキー場しか知らない私にとって、彼らの言う雪景色を想像するのは難しい。

雪が降った次の日は除雪をせねばならず、むしろ想像しようと思えば気が重くなる。雪が少ない方が仕事が楽でいいため、今年はこれで良かったとほっとする自分がいて、、

降り場が確認できた方が何かと都合がいいし、スロープは板を履いたまま必死で上らなければならないし、落ちたら怪我では済まないかもしれないし、窓を開けなくても飲み物は充分冷えた状態で飲むことができる。

これがこのスキー場での私にとっての日常だ。だからむしろ状況が変わることを多くは望まない。今更状況が変わることは生活のリズムそのものが変わってしまう。せっかく慣れた生活に、また新しくルールを作り直すのは望ましくない。

もちろん彼らにそんなことは言わない。言わないけれど心の中では思っている、思いながらも、それでも私は彼らの話に耳を傾ける。

ときに驚いて、ときに関心して、ときに笑って頷く、、

今後またこのスキー場を訪れる機会があるかどうかは分からないが、彼らの言う雪景色の広がるスキー場を、いつか見てみたいと、他人事になった自分が遠くからぼんやりと考えている。

 


「こんなもんじゃないんだよ、この地域の雪はさ、、」としみじみと悲哀に満ちた寂しげな表情でベテランリフト係はいつもそこで語り終え、私はいつも深刻な表情で相槌を打ち、頭の中では、次の仕事をどうしようかと考えている。

 

 

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